
近年の健康志向の高まりとともに、健康食品市場は世界的に拡大を続けています。中でも、東南アジア諸国連合(ASEAN)は、経済成長と人口増加を背景に、健康食品市場の成長が著しい地域として注目されています。
本稿では、アセアンにおける健康食品市場の現状と成長性、日系企業の成功事例、そして健康食品の海外展開における成功要因を分析し、海外展開を検討している企業へのアドバイスを提供します。
1.アセアンの健康食品市場
ASEANは、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、ブルネイ、ミャンマー、ラオス、カンボジアの10カ国からなる経済共同体です。ASEAN経済共同体は、ASEANを単一の市場および生産拠点として構築することを目的としており、域内経済の連携強化を促進しています。総人口は6億人を超え、世界で3番目に人口の多い地域であり、平均年齢も比較的若いため、今後も市場の拡大が見込まれています。
経済成長に伴い、人々の健康意識も高まっており、生活習慣病の予防や健康維持を目的とした健康食品の需要が増加しています。特に、高齢化の進展は、健康食品市場の成長をさらに加速させる要因となっています。
2.アセアンにおける健康食品市場の成長性
TPC marketing researchによると2023年の東南アジア5ヶ国(タイ・マレーシア・インドネシア・ベトナム・シンガポール)の健康食品市場は、前年比1.9%増の7,692.5億円となりました。ASEAN諸国の経済成長、中間所得層の増加、健康意識の高まり、高齢化の進展など、複数の要因によって年々拡大を見せています。さらに、ヘルスケア関連費の増加を背景に、予防的健康管理への意識が高まっていることも、市場の成長を後押ししています。

出所:TPC marketing research
3.アセアンにおける健康食品のトレンド
ASEANの健康食品市場では、以下のようなトレンドが見られます。
消費者の嗜好
・予防医療への関心の高まり: 生活習慣病の増加に伴い、予防医療への関心が高まっています。健康食品は、病気の予防や健康維持に役立つものとして、消費者の関心を集めています。
・天然成分への志向: 天然成分やオーガニック製品への関心が高まっています。消費者は、人工的な添加物や化学物質を含まない、自然由来の健康食品を求める傾向にあります。
・パーソナライズ化: 個人の体質や健康状態に合わせたパーソナライズ化された健康食品への需要が高まっています。遺伝子検査や健康診断の結果に基づいて、自分に最適な健康食品を選ぶ消費者が増えています。
外部環境・テクノロジー
デジタルヘルスの普及: スマートフォンやウェアラブルデバイスの普及により、健康状態を自分で管理する人が増えています。健康食品メーカーは、デジタルヘルスと連携したサービスを提供することで、消費者の健康管理をサポートしています。
サステナビリティ: 環境問題への関心の高まりから、持続可能な生産方法で製造された健康食品への需要が高まっています。
国・地域特有のトレンド
ベトナムでは、玄米ドリンクやゼロカロリー飲料の消費が増加しています。
エネルギー補給を目的としたゼリー飲料や、低糖ヨーグルトも人気を集めています。
ダイエットや健康を促進する商品として、コンブチャ(紅茶キノコ)の消費も増加しています。
4.日系企業の健康食品アセアン展開成功事例
1. 株式会社ファンケル
ファンケルは、1980年に設立された、無添加化粧品と健康食品の開発・販売を行う企業です。2000年代初頭からアセアンへの進出を開始し、現在ではシンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナムなどに拠点を展開しています。
ファンケルは、アセアン市場において、高品質な製品と丁寧な顧客サービスを提供することで、高いブランドイメージを確立することに成功しました。特に、肌への負担が少ない無添加化粧品は、アセアンの女性たちの間で人気を集めています。また、現地消費者のニーズに合わせた商品開発にも力を入れており、例えば、イスラム教徒の多いマレーシアでは、ハラール認証を取得した化粧品や健康食品を販売しています。
2. ヤクルト本社株式会社
ヤクルト本社は、1935年に設立された、乳酸菌飲料「ヤクルト」などを製造・販売する企業です。1960年代からアセアンへの進出を開始し、現在ではタイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム、シンガポールなどに拠点を展開しています。
ヤクルト本社は、「ヤクルトレディ」と呼ばれる販売員による戸別訪問販売という独自の販売方法で、アセアン市場に浸透することに成功しました。ヤクルトレディは、地域住民との密接なコミュニケーションを図りながら、ヤクルト製品の販売だけでなく、健康に関する情報提供も行っています。

ヤクルトレディ(YL)による訪問販売の様子(出所:JETRO)
3. 資生堂
資生堂は、1872年に設立された、化粧品、医薬品、トイレタリー製品などを製造・販売する企業です。1950年代からアセアンへの進出を開始し、現在ではシンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピンなどに拠点を展開しています。
資生堂は、アセアン市場において、高価格帯のプレステージブランドから、手頃な価格帯のマスブランドまで、幅広いブランドを展開することで、多様な顧客層を獲得することに成功しました。また、現地消費者の肌質や嗜好に合わせた商品開発にも力を入れており、例えば、紫外線が強いアセアン地域では、美白効果の高い化粧品を投入するなどしています。
5.海外展開にあたり重要な点
・市場調査の重要性: 海外展開を成功させるためには、まず市場調査が重要となります。進出先の国の市場規模、成長性、競合状況、規制などを調査し、市場のニーズを把握することが重要です。
・商品開発: 現地消費者のニーズに合わせた商品開発が重要です。特に、健康食品は、文化や宗教的な背景によって、嗜好や需要が大きく異なるため、 carefulな検討が必要です。
・マーケティング: 現地の文化や習慣に合わせたマーケティング戦略が重要です。広告宣伝や販売促進活動を行う際には、現地の言語や宗教、価値観などを考慮する必要があります。
・販売チャネル: 現地の販売チャネルを確保することが重要です。小売店、オンラインストア、代理店など、様々な販売チャネルを検討し、最適なチャネルを選択する必要があります。
・法規制: 健康食品に関する法規制は国によって異なります。進出先の国の法規制を事前に確認し、必要な手続きを行う必要があります。
・文化: 現地の文化や習慣を尊重することが重要です。ビジネスを行う際には、現地の商習慣やエチケットを理解し、相手に失礼な言動をしないように注意する必要があります。
6.結論
アセアンの健康食品市場は、今後も高い成長が見込まれる有望な市場です。日系企業は、高品質な製品と丁寧な顧客サービス、そして現地ニーズに合わせた商品開発やマーケティング戦略によって、アセアン市場での成功を収めています。海外展開を検討している企業は、これらの成功事例を参考に、市場調査、商品開発、マーケティング、販売チャネル、法規制、文化など、様々な側面から 慎重に検討を進める必要があります。
注:本リサーチの情報は、2024年11月時点の公開情報に基づいています。市場データや企業情報は最新のものを参照していますが、詳細な数字は各企業の公式発表や市場調査レポートを確認することをお勧めします。
参考
1. ASEAN 6を読み解く: 進化する食のトレンド – 山田コンサルティンググループ
https://www.ycg-advisory.jp/learning/oversea_201/
2. 品目別カントリーレポート 健康食品 – ジェトロ
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2024/5805830a6128189c/202403_summary.pdf