シンガポールの健康食品市場規模と今後の展望

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最終更新:2025/1/30

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近年、世界的に健康志向が高まる中、シンガポールにおいても健康食品市場は注目を集めています。本稿では、政府機関や業界団体、市場調査会社のデータなどを参考に、シンガポールの健康食品市場規模の現状と、高齢化社会や健康意識の高まり、新型コロナウイルスの影響などを踏まえた今後の展望について解説していきます。2

1.シンガポールの健康食品市場規模

シンガポールの健康食品市場は近年、堅調に成長を続けています。TPC marketing researchによると2023年の東南アジア5ヶ国(タイ・マレーシア・インドネシア・ベトナム・シンガポール)の健康食品市場は、前年比1.9%増の7,692.5億円でした。その中で、シンガポールは1,066億円(構成比13.9%)と、タイ、マレーシア、インドネシアに次ぐ規模となっています 1。 さらに、Spherical Insightsの調査によると、シンガポールの栄養補助食品市場規模は、2023年には5億3,000万米ドルと評価され、2033年までに10億3,000万米ドルに達すると予測されています。2023年から2033年にかけての年平均成長率(CAGR)は6.87%と、高い成長が見込まれています2

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[出所]Spherical Insights

2.市場成長の要因

シンガポールの健康食品市場の成長を牽引している要因として、以下の点が挙げられます。

高齢化の進展: シンガポールは急速な少子高齢化が進んでおり、平均寿命は83歳、健康寿命は73歳です。(Singapore Department of Statics, WHO) 健康寿命を延ばしたいというニーズの高まりは、健康食品市場の成長を後押ししています。
健康意識の高まり: 健康的なライフスタイルへの関心が高まり、食生活や運動習慣を見直す人が増えています 3。 特に、糖尿病有病率が高いシンガポールでは、政府が「WAR ON DIABETES(糖尿病との闘い)」をスローガンに掲げ、国民の健康増進に取り組んでいます 5
新型コロナウイルスの影響: パンデミック以降、免疫力向上を目的とした健康食品への関心が高まっています 6。パンデミックの影響で、消費者は免疫力を高める方法をますます求めるようになり、免疫機能をサポートする健康食品やサプリメントの需要が急増しています。

3.今後の市場展望

上記の要因に加え、以下の点も今後の市場拡大に寄与すると考えられます。

テクノロジーの進化: 培養肉などの代替タンパク質 8 や、垂直農法による野菜生産 8 といったフードテックの進展は、健康食品の選択肢をさらに広げると期待されます。
消費者嗜好の変化: 消費者は、よりパーソナライズされた健康ソリューションを求めるようになってきています。遺伝子検査に基づいたサプリメントの提案や、個人の体質に合わせた食事指導など、個別最適化されたサービスへの需要が高まっています 9
予防医療へのシフト: 高齢化の進展に伴い、病気になってから治療するのではなく、健康な状態を維持するための予防医療への関心が高まっています。この流れは、健康食品市場の成長をさらに加速させる可能性があります。
シンガポールが代替タンパク質市場のハブへ: シンガポールは、代替タンパク質市場において、アジアのハブとなる可能性を秘めています 8。政府の積極的な支援や、培養肉の販売に関する世界初の基準策定など、有利な条件が揃っています。

4.シンガポールの健康食品市場のトレンド

現在のシンガポールにおける健康食品市場のトレンドとして、以下の点が挙げられます。

栄養素補給・免疫対策: ビタミンやミネラル、プロバイオティクスなど、基本的な栄養素を補給するサプリメントや、免疫力を高める効果が期待される食品の需要が高まっています 1
生活習慣病・ダイエット: 運動不足や不健康な食生活による生活習慣病の増加を受け、生活習慣病予防やダイエットをサポートする健康食品が注目されています 1
美容・アンチエイジング: 美意識の高い消費者をターゲットとした、美容効果やアンチエイジング効果を訴求する健康食品の人気が高まっています 1
オンラインチャネルの拡大: インターネット利用率の増加に伴い、オンラインでの健康食品販売が拡大しています 1。ShopeeやLazadaなどのECサイト 1 や、企業の自社サイト、SNSなどを活用した販売が主流となっています。特に、Facebook、Instagram、TikTokなどのSNSを活用し、消費者への直接的なアプローチを行う企業が増加しています。

5.シンガポールにおける健康食品関連政策

シンガポール政府は、国民の健康増進を目的とした様々な政策を推進しています。

Healthier Choice Symbol (HCS): 健康推進庁(HPB)は、健康に良いとされる食品にHCSマークを付与し、消費者の健康的な食品選択を支援しています 1。HCSマークの付与基準は、飽和脂肪酸、糖分、ナトリウムなどの含有量を考慮しており、消費者はHCSマークを参考に、より健康的な食品を選ぶことができます 1
糖分等の含有量の多い飲料への栄養情報表示義務: 糖尿病対策として、糖分の多い飲料に栄養情報表示を義務付け、消費者の意識改革を促しています 5
・Healthy Eating Outreach Programme: 外食産業に対し、より健康的なメニューの提供を奨励するための補助金制度を設けています 1
National Steps Challenge™: 健康増進局が主導する国民の健康増進プログラムです。歩数計やスマートウォッチなどを活用し、国民の運動量増加を促しています 11
食品輸入規制: 健康食品を含む食品の輸入には、輸入貿易業者ライセンスの取得またはシンガポール食品庁(SFA)への登録が義務付けられています 5

6.研究開発

シンガポールは、食料自給率の向上と食の安全確保を目指し、フードテック分野の研究開発に力を入れています。特に、代替タンパク質や垂直農法などの分野で、政府が積極的に支援を行っています。

7.競合状況

シンガポールの健康食品市場は、国内外の多くの企業が競争を繰り広げています。

主なプレーヤー: 栄養補助食品市場では、General Nutrition Centers Inc、Suntory Holdings Ltd、Nu Skin Enterprises Inc、Amway Corpなどが、機能性食品市場では、Abbott laboratories Inc、Yakult Honsha Co Ltd、Danone Groupなどが主要なプレーヤーとして挙げられます。
競争の激化: 高齢化や健康意識の高まりを背景に、市場に参入する企業が増加しており、競争は激化しています。

8.日本企業への機会

シンガポールの健康食品市場は、日本企業にとっても大きなビジネスチャンスとなります。

・日本食への高い関心: シンガポールでは、日本食は健康的で高品質というイメージがあり、人気が高いです。このため、日本の健康食品は、シンガポール市場においても受け入れられやすいと考えられます。
・新規参入の余地: シンガポールでは、多様な食文化が共存しており、様々な健康食品に対するニーズが存在します。日本の健康食品は、まだ十分に認知されていないため、新規参入の余地は大きいといえます。

9.まとめ

シンガポールの健康食品市場は、高齢化社会の進展、健康意識の高まり、新型コロナウイルスの影響などを受けて、今後も成長を続けると予想されます。テクノロジーの進化や消費者嗜好の変化に対応しながら、新たな商品やサービスが開発され、市場はさらに多様化していくでしょう。 特に、予防医療への関心の高まりや、パーソナライズされた健康ソリューションへの需要増加は、今後の市場を大きく左右する要因となると考えられます。 シンガポールで健康食品ビジネスを展開する企業は、これらのトレンドを把握し、消費者ニーズに対応した商品やサービスを提供することで、成功を収めることができるでしょう。

注:本リサーチの情報は、2024年11月時点の公開情報に基づいています。市場データや企業情報は最新のものを参照していますが、詳細な数字は各企業の公式発表や市場調査レポートを確認することをお勧めします。

参考

1. 健康食品調査(シンガポール) – ジェトロ
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2019/9635a5cc73349b2e/health-spr2.pdf

2. シンガポール栄養補助食品市場規模、シェア2033 – Spherical Insights,
https://www.sphericalinsights.com/jp/reports/singapore-nutritional-supplements-market

3. 【食とインバウンド】健康意識が高まるシンガポール – NNA ASIA・日本・食品,
https://www.nna.jp/news/2405751

4. 生活習慣病を減らせ ~シンガポールの食品添加物・糖分規制~ – 七十七銀行,
https://www.77bank.co.jp/pdf/kokusai/globalnews/news_vol5.pdf

5. 健康関連食品調査(シンガポール) – ジェトロ,
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2023/74dc32d015494f4b/pf_spr_01.pdf

6. 超高齢社会が迫る中、注目される予防医療(シンガポール) | 地域・分析レポート JETRO,
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2023/c87d4fa9b72af119.html

7. 健康関連食品調査(シンガポール)(2023年3月) | 調査レポート – 国・地域別に見る – ジェトロ,
https://www.jetro.go.jp/world/reports/2023/02/74dc32d015494f4b.html

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