ASEAN諸国における肥満問題とビジネスチャンス

person_img 池田浩一郎

最終更新:2025/2/13

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近年、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国において、経済発展に伴う生活水準の向上が見られます。しかし、その一方で食生活や生活習慣の欧米化により、肥満や生活習慣病の増加が深刻な社会問題となっています。本リサーチでは、ASEAN諸国における肥満と生活習慣病の相関性を明らかにし、日系企業がこの状況下でどのようなビジネスチャンスを見出せるかを検討します。

ASEANにおける肥満と生活習慣病の現状

ASEAN諸国は多様な文化と経済状況を持つ10カ国で構成されていますが、多くの国で肥満率が上昇傾向にあります。例えば、マレーシアでは成人の約50%が過体重または肥満であり、ASEAN諸国の中で最も高い水準にあるとされています[1]。タイでは、肥満率が過去20年間で約三倍に増加し、成人の約32%が過体重または肥満とされています[2]。 生活習慣病の一つである糖尿病も増加しています。インドネシアでは、2019年時点で糖尿病患者数が約1070万人に達し、2030年までに1600万人を超えると予測されています[3]。これらの数字は、肥満と生活習慣病がASEAN諸国で深刻な健康問題となっていることを示しています。

肥満と生活習慣病の相関性

肥満は生活習慣病の主要なリスク要因の一つです。過剰な体脂肪はインスリン抵抗性を引き起こし、糖尿病の発症リスクを高めます。また、高血圧や心血管疾患、脂質異常症などの疾患とも強く関連しています。ASEAN諸国での肥満率の上昇は、これら生活習慣病の増加に直結していると言えます。 食生活の変化、特に高カロリー・高脂肪の食事や加工食品の摂取増加が肥満の主な原因とされています。さらに、都市化に伴う運動不足も肥満を助長しています。

ビジネスチャンスと具体的な企業の取り組み例

このような健康問題の拡大は、日系企業にとって以下のようなビジネスチャンスがあると考えられます。

1.医薬品・医療機器市場の拡大
生活習慣病の増加に伴い、医薬品や医療機器の需要が高まっています。例えば、武田薬品工業は東南アジア市場で糖尿病治療薬「ネシーナ」を展開しており、現地でのシェア拡大を図っています[4]。また、テルモは心臓血管系の医療機器を提供し、現地の医療水準向上に貢献しています。

2.健康食品・サプリメント市場の成長
健康意識の高まりにより、栄養補助食品や機能性食品の需要が増加しています。ファンケルはシンガポールやマレーシアで直営店を展開し、高品質なサプリメントを提供しています[5]。DHCもオンライン/オフライン販売を通じてASEAN市場への進出を強化しています。
中堅/中小企業の取り組みも活性化しており、ライフイットラボ社は糖尿病予防にも効果のある製品開発に成功し、シンガポールでの販売に着手しています【6】。

3.フィットネス・ウェルネス産業の発展
フィットネスへの関心が高まる中、日本のフィットネスチェーン「エニタイムフィットネス」は、タイ、フィリピン、マレーシアなどで店舗数を増やしています[7]。24時間営業という利便性が現地で支持されています。

4.デジタルヘルスケアの可能性
スマートフォンの普及により、健康管理アプリやオンライン診療の需要が高まっています。オムロンヘルスケアは血圧計や活動量計などのデバイスを提供し、デジタルプラットフォームを通じて健康データの管理をサポートしています[8]。

ビジネス展開の戦略提案

1.現地ニーズの深堀り
文化や習慣が多様なASEAN諸国では、各国のニーズを的確に捉えることが重要です。現地の市場調査を徹底し、カスタマイズされた製品やサービスを提供する戦略が求められます。

2.パートナーシップの構築
現地企業や政府機関との連携は、市場参入をスムーズに進める上で不可欠です。共同プロジェクトや技術提携を通じて、信頼関係を築くことが重要です。

3.デジタル技術の活用 デジタルプラットフォームを活用したマーケティングや顧客サービスは、若年層を中心に効果的です。オンライン診療や健康管理アプリの提供も、新たな収益源となり得ます。

まとめ

ASEAN諸国における肥満と生活習慣病の増加は、深刻な社会問題であると同時に、日系企業にとって多大なビジネスチャンスを提供しています。医薬品、医療機器、健康食品、フィットネス、デジタルヘルスケアなど、多岐にわたる分野での市場拡大が見込まれます。現地のニーズを的確に把握し、適切な戦略を持って参入することで、企業の成長と地域の健康増進の双方に貢献できるでしょう。



注:本リサーチの情報は、2025年1月時点の公開情報に基づいています。市場データや企業情報は最新のものを参照していますが、詳細な数字は各企業の公式発表や市場調査レポートを確認することをお勧めします。

参考

[1]: World Health Organization https://www.who.int/countries/mys/

[2]: World Obesity Federation https://www.worldobesity.org/

[3]: International Diabetes Federation https://idf.org/

[4]: 武田薬品工業 https://www.takeda.com/jp/

[5]: ファンケル https://www.fancl.jp/

[6]ライフイット・ラボ株式会社 https://www.lifeit-labo.com/

[7]: Anytime Fitness Asia – Locations https://www.anytimefitnessasia.com/

[8]: オムロンヘルスケア https://www.healthcare.omron.co.jp/

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