化粧品メーカーにとってのASEAN進出の魅力

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最終更新:2025/4/11

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東南アジア諸国連合 (ASEAN) は、近年目覚ましい経済成長を遂げており、世界中の企業にとって魅力的な市場となっています。特に、化粧品市場は、ASEAN諸国における所得水準の向上や美容意識の高まりを背景に、急速に拡大しています。このレポートでは、化粧品メーカーがASEANに進出する魅力について、市場規模、人口、年齢別人口構成、トレンドなどを交えて深く分析します。

ASEAN化粧品市場の概要

ASEANの化粧品市場は、2020年には254.49億米ドルに達し、2020年から2023年にかけて年平均成長率 (CAGR) 5.3%で成長すると予測されています 1。ASEANの人口は6億8000万人を超え、世界で最も急速に成長している美容市場の一つに参入する大きな機会を、グローバルブランドとローカルブランドの両方に提供しています。

市場の成長を牽引する主な要因は、力強い経済発展、都市化、デジタルに精通した消費者基盤です。ASEAN諸国のGDP成長率は、ベトナムやフィリピンなどでは6%を超えており、可処分所得の増加に貢献しています。また、都市部人口の増加に伴い、グローバルな美容トレンドに接する機会が増え、スキンケアや化粧品への需要が高まっています。ASEANの美容・パーソナルケア市場は、2024年までに市場収益が340億米ドルを超えると予測されており、大きな成長が見込まれています 2

ASEANの化粧品市場規模は、いくつかの調査機関から発表されています。Fortune Business Insightsによると、ASEANのコスメシューティカル市場規模は、2020年に50.4億米ドルで、2021年から2028年にかけてCAGR14.5%で成長し、2028年には147.5億米ドルに達すると予測されています。この市場の成長を牽引する主な要因として、オンライン販売チャネルの利用増加、可処分所得の増加、コスメシューティカルの採用を促進する新しい有効成分の開発と使用などが挙げられます。

Statistaによると、2020年のASEANの美容・パーソナルケア市場規模は国別に以下の通りです 1

市場規模 (2020年, 億米ドル)
インドネシア 70.95
シンガポール 10.4
マレーシア 24.21
フィリピン 40.23
タイ 5.3
東ティモール 0.53

さらに、ASEANの美容・化粧品市場は、メイクアップ、パーソナルケア、フレグランスの3つの主要セグメントに分けられます。メイクアップは、顔、唇、爪、目を含み、パーソナルケアは、スキンケア、ヘアケア、ボディケアを含みます。最も収益が高いのはパーソナルケア部門で、187.5億米ドルを超えています。一方、ASEANにおけるメイクアップと化粧品の年間収益は37.84億米ドル、フレグランス市場は23.97億米ドルです。

人口動態

ASEAN諸国の人口は増加傾向にあり、2022年には約6億7302万人に達しています。中でも、インドネシアはASEAN全体の人口の約3分の1を占めており、最も人口の多い国です。

東南アジアの人口は、1950年から2024年にかけて増加を続けており、2024年には6億9514万9428人に達しています。2024年の人口増加率は0.73%で、年間増加数は503万2244人です。

都市部人口も増加傾向にあり、2024年には東南アジアの人口の52.2%にあたる3億6265万6317人が都市部に住んでいます。 ASEANにおける高齢化も注目すべき点です。高齢化率は2000年の10.4から2022年には13.5に上昇しており、特にシンガポールでは11.8から29.2へと大幅な増加が見られます 4

ASEAN地域全体では、2023年時点で、0〜14歳が24.3%、15〜64歳が67.6%、60歳以上が12.5%となっています。2050年には、0〜14歳が19.0%、15〜64歳が64.7%、60歳以上が22.0%になると予測されており 5 、高齢化が進むことが分かります。

トレンド

トレンドとして、まず、ナチュラル・オーガニック志向があげられます。合成化学物質の潜在的な副作用に対する消費者の意識が高まり、天然・オーガニック化粧品への関心が高まっています。2022年3月に実施されたDaily Vanityの調査によると、シンガポールの消費者の32.78%が、天然スキンケア製品は従来の製品よりも効果的だと考えていることが明らかになりました。この消費者の意識の高まりを受けて、メーカーは、「オーガニック」、「ビーガン」、「ナチュラル」、「ケミカルフリー」、「クルエルティフリー」といった表示を伴い、植物由来のクリーンラベル成分を使用した製品を拡充しています。市場では、有効成分や複合的な天然成分を含む、皮膚科医がテストした製品が強く好まれています。ブランドは、多機能特性を持つ植物由来の成分、特にプレミアムな植物成分に注目するようになっています。例えば、Mellow Naturalsは、敏感肌用スキンケア製品に、タイやアジアの最高級の産地から天然成分を調達しています。また、Cetaphilのように、配合成分の透明性と環境への影響を重視するブランドも増えています。

次に敏感肌向け製品も挙げられるでしょう。高温多湿で日差しが強い熱帯気候のASEAN地域では、敏感肌の消費者が増加しており、敏感肌向けに特化した製品の需要が高まっています。これらの環境要因は、皮膚のマイクロバイオームバランスに大きな影響を与え、アトピー性皮膚炎、湿疹、赤み、肌の黒ずみ、ニキビ、色素沈着など、様々な肌の悩みにつながります。Daily Vanityによると、2022年には、シンガポールの消費者の間で、敏感肌のスキンケアが37.05%と最も多い肌の悩みの1つとして浮上し、次いでニキビ跡が36.95%、ニキビ/吹き出物が36.68%となっています 6

この敏感肌の増加に伴い、メーカーは、敏感肌のスキンケアのために特別に処方された、革新的で十分に研究された製品を開発するようになりました。消費者の需要の高まりは、成分技術と処方アプローチに大きな革新をもたらしています。メーカーは現在、プレバイオティクス、プロバイオティクス、ポストバイオティクスの高度な組み合わせを取り入れ、敏感肌の様々な悩みに対応しています。例えば、Paragonは2022年2月にLABORÉとスキンケアの専門家と協力し、熱帯の肌の特徴を研究し、インドネシアで初めて900人のインドネシア人女性を対象にテストされた敏感肌専用のスキンケア製品ラインを開発しました。これらの製品は、高度なマイクロバイオーム科学を採用しており、アルコールフリー、無香料、ノンコメドジェニック、皮膚科医によるテスト済み、ビーガン、クルエルティフリーと表示されています。

サステナビリティーも抜かせないトレンドの一つです。環境に配慮した製品設計、生分解性パッケージ、クルエルティフリー認証など、サステナビリティへの関心が高まっています。

K-BeautyはASEANでも人気です。韓国ブランドの化粧品やスキンケア製品が人気を集めています。

各国の特徴

市場特性
インドネシア ハラル化粧品の需要が非常に高く、マス向けの化粧品が売上の74%を占めています1
シンガポール 高級化粧品やハイテク美容ソリューションが好まれ2、一人当たりの平均収益は約177.81米ドルとASEANで最も高いです1
マレーシア 若々しい外見を向上させることに特化したマーケティングを行う有名ブランドの美容製品が人気です1
フィリピン 韓国化粧品の市場の3分の1を占めており、小売市場が中心です。
タイ 美白製品の需要が高く、美容製品の製造・輸出拠点としての地位を築きつつあります。
ベトナム 高価格帯のプレミアム製品に対しても購買意欲が高く、オンライン小売売上高は2013年から2018年にかけて379.0%増加しました。
ミャンマー 中間層の増加と消費者の洗練化により、美容・パーソナルケア製品の売上が増加しています。

主要な化粧品企業

ASEANで事業を展開している主要な化粧品企業は、以下の通りです。

・グローバルブランド:
L’Oréal、Unilever、Procter & Gamble、Estée Lauder、Shiseidoなど。

・ローカルブランド:
– インドネシア: Wardah、Emina
– マレーシア: Silkygirl、In2it、4u2 Cosmetics、Pixy
– フィリピン: Belo、Sunnies Face、Human Nature
– タイ: Snailwhite
– シンガポール: Skintific, Ceradan

化粧品メーカーにとってのASEAN進出の魅力

高い経済成長率を背景にASEANの化粧品市場は今後も拡大が見込まれており、特にコスメシューティカル市場は2028年までに147.5億米ドルに達すると予測されています 3

さらに、東南アジアでは人口の50%以上が30歳未満という人口ボーナス期にあり 2、若年層の消費意欲の高さから、手頃な価格で革新的な美容製品への需要が引き続き促進されると見込まれます。

各国で異なる文化や宗教、所得水準に合わせた製品開発が求められる一方で、インドネシアやマレーシアではハラル化粧品、シンガポールでは高級化粧品といった多様なニーズに合わせた製品展開の可能性が広がっています。そうしたニーズの拡大を支える要素としては、中間層の増加も大きな役割を果たしており、PricewaterhouseCoopersの2018年5月のレポートによれば、ASEAN地域には推定8700万世帯の中間層が存在し、可処分所得の増加によって化粧品市場の成長に寄与しています 3

加えて、近年はEコマース市場の急速な拡大 2によってオンライン販売チャネルが重要な戦略となっており、東南アジアのEコマース市場が2025年までに2000億米ドルに達すると予測されている 2ことは、デジタルを活用した販路拡大を後押ししています。

こうしたなか、ACDによる域内の化粧品規制の調和も進んでおり、事業展開がより容易になっている点も魅力と言えます。

特に若年層がオンラインでの情報収集や購買に積極的で、K-beautyのような新たなトレンドに敏感であるASEANでは、デジタルマーケティングやインフルエンサーマーケティングを駆使することでブランド認知度の向上や売上拡大が期待されます。

結論

ASEANの化粧品市場は、成長性、人口ボーナス、多様なニーズ、Eコマースの普及、規制の調和など、多くの魅力的な要素を備えています。化粧品メーカーは、これらの要素を踏まえ、各国の市場特性を理解した上で、適切な戦略を策定することで、ASEAN市場での成功を収めることができるでしょう。

特に、若年層や中間層をターゲットとしたマーケティング戦略、Eコマースを活用した販売戦略、ハラル化粧品などのニーズに対応した製品開発などが、ASEAN市場での成功の鍵となるでしょう。しかし、ASEAN市場に進出する際には、各国で異なる文化や宗教、所得水準、規制などを考慮する必要があり、市場参入には慎重な調査と分析が不可欠です。

注:本リサーチの情報は、2025年1月時点の公開情報に基づいています。市場データや企業情報は最新のものを参照していますが、詳細な数字は各企業の公式発表や市場調査レポートを確認することをお勧めします。

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